淋しいのはアンタだけじゃない1巻レビュー



ルポ漫画を描いている作者の、新作テーマは聴覚。

取材に応じてくれたのは2人の会社員。
1人は生まれつきほとんど音が聞こえず、1人はクラクションを鳴らされてやっと車に気付く程度。
「ぼくらマンガが大好きなんです!」
擬音表現で音を知った彼ら。取材は順調に進み、当時話題だった佐村河内守の話をふった。

「彼のように、聞こえるけど聞こえないとウソをつく人もいるけど、あの事件はどう思われましたか?」
手話が返ってくる。
「佐村河内はずっと前からボランティアで来てくれていた。失聴していたはずです。本人は聴力が戻ったと言っているが、本当にそんなことがあるのか、わからない」

本当のことを知りたい、取材したいと手紙を書き、佐村河内家のポストに入れた。
まだこのとき作者は「覚悟」をしていなかった。


●医者は「慣れろ」と言った

次の女性の体験談は壮絶だった。
ごく普通にしゃべって、何も不自由に見えない彼女は、実際は4年前に高熱が出て両耳を失聴。
聞こえないこと以上につらいのは耳鳴り。頭のすぐ上で「ジェット機が飛んでいる」。

ファミレスの間近でジェット機が飛ぶ異様な光景が描かれる。
本作では、多様な聴覚障害を、マンガならではの吹き出し、擬音を使って見せる。
セリフが入った吹き出しを真っ白にしたり、言葉をゆがめたり、擬音を前面に大きく書く。
どれも、聴覚障害者の症状を、可能な限り絵で表現したもの。

最初に取材した会社員がマンガで
「聞こえる人の世界ってこんなに音があるんだ!」と知ったのと逆に、
聞こえる側が
「聴覚障害の世界ってこんな感じなんだ!」と一目でわかるようになっている。


福祉大学出身の作者は、自分は何も知らなかった、と過去を振り返る。
ダメな大学生活を送って、TV業界に入った。ドキュメンタリーを作りたかったけど、人にカメラを向けるのが苦手ですぐに辞めた。
そこから、人と関わらずに作る「ドキュメンタリー漫画」を作った。


●公開の見通しすら立っていなかった「FAKE」

忘れかけていたころに佐村河内サイドから返事が来た。

「実は今、極秘でドキュメンタリー映画の密着取材を受けている。撮られる覚悟があるなら取材に応じる」
監督兼カメラマンは森達也。オウム真理教を扱った映画「A」のため、教団内部に13カ月住み込んだ男。
かつてドキュメンタリー作りに憧れていた作者にとっては尊敬する人物。

とんでもない2人と同時に関わるチャンスが転がり込んできた。


●主人公は彼だった

聴覚障害の漫画のつもりで読んでいたら佐村河内の話が出てきて、森監督といっしょに事件の真相に迫るのか、と思いきや作者がクヨクヨ悩み始める。
これ何の漫画? 聴覚障害と佐村河内、どっちがテーマなわけ?

だけど「作者自身が主人公なんだ」とわかった瞬間にスッキリする。

福祉から逃げ、撮影現場からも逃げてきた作者の前に再び、福祉と撮影のからんだ難解な案件が立ちふさがる。
一旦は逃げ腰になった作者だが、
「今度は逃げない」
と決心する瞬間を描いている。

佐村河内家で取材した作者らは、監督のある行動で自分たちとの違いを思い知らされることになる。
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コメント

こんばんは #-

こういう漫画求めてました!

読みたい!kindleで調べたら、ありました。予約注文で、7月ですが、買っときました。楽しみです。ありがとうございます!
あ、今回のレビューは何の本か分かりやすかった気がします。本の内容から、ちょっと引いた視点で、書かれてたからかな???わかりません!

2016年06月11日(土) 11時58分 | URL | 編集

南 光裕(南里) #-

Re: こういう漫画求めてました!

おー、嬉しい!かなり絵も内容も独特で、とにかく他にない感じですよ。

> 読みたい!kindleで調べたら、ありました。予約注文で、7月ですが、買っときました。楽しみです。ありがとうございます!
> あ、今回のレビューは何の本か分かりやすかった気がします。本の内容から、ちょっと引いた視点で、書かれてたからかな???わかりません!

2016年06月13日(月) 01時41分 | URL | 編集


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