現代日本の若者たちの未来を照らす寄書「放っておいても明日は来る」レビュー


「放っておいても明日は来る ~就職しないで生きる9つの方法~」
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2009年に本の雑誌社から刊行されました。
9人の語り手が、将来に悩む若者たちに広い視野をもってもらうために作った一冊。
この本には、他の就職ガイド本と明らかに違う点がある。




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おわかりいただけただろうか。

語り手の一人、野々山さんが特撮好きで、著者紹介の写真に一人だけライダーキックで映っていることである。
これだけでも、この本が他と違うことが、わかっていただけるかと思う。



アジア各地を渡り歩いた経験を持つ作者、高野秀行(ダ・ヴィンチ誌上でオードリー春日さんと対談中!)は、大学で自身の経験を生かした講義をしてほしいと依頼される。
大したことは教えられないので、アジア各地で働く8人の知り合いプラス自分で、それぞれの体験談を話すことにした。
日本での勉強や就職活動に悩んでいる学生には、世界で生きている人たちの話を直に聞くことでいい刺激になるだろう、と思っていたが、学生たちが次々と口にしたのは
「癒されました」
という言葉だった。

語り手は、熱帯で手に入る植物を研究して製薬会社と研究をしている二村聡さん、
ダイエットで始めたキックボクシングのプロになってしまった下関崇子さん、
純沖縄産の映画を作っている井出裕一さん。。。


それぞれ相当面白い話が聞けるんだけど、まず存在感のあるのは、欧米人相手に秘境探検ツアーのガイドをしている金澤さん。
彼は、30年ほど前まで首刈りの風習があった村に、欧米人を連れて行くガイドをしている。
トラブルやワイロの要求は当たり前にあるし、客は2人死んだ。
それでもガイドが引いたら話にならない、客が死んだときも事前に危険性を説明しておいたから問題にはならなかった、というハードな仕事だ。社員は強制的に空手の道場に通うことが義務になっている、
日本人だと金を払えば楽な経験ができるのが当然という感覚があるけど、欧米の富裕層は金を払ってあえて苦労する「探検」という楽しみも知っているというのは面白い。


他にも、ラオスのビエンチャンという街でカフェをやっている黒田さんという人がいる。
「なぜラオスに出店しようと思ったんですか?」
「カフェ・ビエンチャンの名前が格好いいでしょう? 第一候補はカフェ・リスボンだったからリスボンに行きたかった」

現地の客層とか食材とか全く考えていない。
店作りは、「学園祭で模擬店とかを作る感じでトンカチ持って作れば3か月ぐらいでできる」と勝手に決めて作り出した。
できるわけない。計画というか、思い付きだけで出発して、それでも商売は軌道に乗ってしまう。


そしてこの本を象徴する存在が、屋久島ガイドの野々山富雄さん。
元々はコンゴで砂漠化防止のための技術を教えたり、酒を飲んだりしていたが、日本に戻って各地で活動報告をして、終点の屋久島に行ったらそこから行き先がない。

でも屋久島がきれいで気に入ったので、一坪600円ぐらいで土地をたっぷり買って、木を切って家らしきものも作って、電気が通ってからはそこでウルトラマンやライダーのビデオを観ていた。
もっとも、手作りの家には本物のマムシが出るから、画面の中の怪獣よりそっちの方が脅威のような気もするが。

そのうちに、屋久島が神秘の場所みたいな感じでテレビに取り上げられるようになって、成り行きでガイド業をすることになり、縄文杉で歩けなくなったおじさんをおんぶしたりして、毎日せっせと活動している。

そのあと、成り行きまかせで来た野々山さんは
「屋久島に住むのが1年早ければガイド業は成立していなかったし、1年遅ければ人気スポットとして取り上げられて、土地も仕事も他の誰かのものになっていた」
ということを言うんだけど、ここまで読んで急に、この講義を受けた学生がなぜ「癒された」と発言したのか解ってしまう。

「くよくよ悩んでもしょうがない」とは聞いていたけど、この人たちの話を聞いていると、本当に、将来を不安がることって、思ったより無意味だな、ということを痛感させられるのだ。
ダメな時はダメ。 だけど、動いていれば何か起こるし、何かやってると人が集まってくるものだし、一時的に「詰んだ」と思われた人生が、もうひと転がりしてどうにかなってしまうこともある。

僕らはいつの間に、こんなに人生を深刻に考える癖がついていたんだろう。




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