長嶋有「愛のようだ」キン肉マンの引用をしつつもクールな印象が崩れない一冊

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去年の大晦日に読み終わった長嶋有の初めての書きおろし小説「愛のようだ」。
別名ブルボン小林としてマンガ・ゲームコラムも書いている作者の持ち味が存分に発揮された内容で、とっても変で素晴らしかった。

ストーリーは40代で免許を取った主人公とその友達が車に乗って遠くまで行くだけなんだけど、その中に登場する
「車にのりたての人が誰もが感じる出来事」
「カーステレオからかかる音楽への考察」
が細かくて、そっちの方がメインといってもいい。

ガソリンスタンドのやり取りの会話が「ミニマム」で緊張するとか、昔のアニメの主題歌を流してみんなで盛りあがって歌おうと思ったら2番だけ誰も知らないとか、
ちょっと笑えるようなやり取り、そして「誰もがうっすら気づいてはいたけど見逃していたし、言葉にもしていなかった」出来事を丁寧に書き出していく。

読みなれてない人だと、笑える話でもないのに80~90年代のカルチャーが次々出てくることに違和感がありそうだけど、これはハードボイルドに銃やタバコが出てくるようなもので、その年代に生まれ育ったのだから自分が触れたものの話が出てくるのは当然だし、かっこ良さげなものを安易に持ってこないところが、なんというか、一周回ってかっこいいと思えるんです。

苦しい状況にいる人物を、
「超人オリンピックの決勝でロビンマスクのタワーブリッジに捕らえられたキン肉マンの、その後のあっけない逆転劇のようなことが実際の人生に起きないとも限らないじゃないか」
と言い聞かせる主人公。

キン肉マンの主題歌は
「私は(ドジで)強い(つもり)」
とコーラス部分を入れられてギャグにされているが、それに気づかない「私」だからそのあとの歌詞を堂々と言い切ることができるのだ、という解釈には、こじつけにしろ燃えました。

そういえば懐かしのアニソンって、その作品に思い入れもないのに元気が出たり、なぜか切なくなる感覚がある。
そんな心のかすかに動いた瞬間を観察した作品です。



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