高野秀行「未来国家ブータン」amazon過去レビュー

未来国家ブータン未来国家ブータン
(2012/03/26)
高野 秀行

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知り合いの会社に頼まれた著者が、ブータンの薬草や人々の様子、ついでにイエティ(雪男)の調査をするというルポです。

これまで腰痛体験記やサハラマラソンなど、他に誰も書けない変化球作品が続いていましたが、本作は久々に「ルポライター・高野秀行」として直球勝負してきた感があります。

村人と酒を交わしながらイエティの話を聞いてまわるうち、伝統文化や王様を中心にした政治システムが見えてくる様子は興味深く、やや硬質になった文体で読みごたえもあり。
風景描写もイメージしやすく、ブータンという国がどういう発展の仕方をしてきたかも分かりやすく書かれています。

ただし、UMAファンにとってはある意味肩透かしになるかもしれません。
この本は、過去の未知生物探索本と明らかに違う点があります。
イエティへの興味がブータン行きの動機にはなっているんですが、著者は初めから「陸上に大型の未知生物がいる可能性は低い」と一定の距離を置いています。

ぶっちゃけて言ってしまえば、過去作品で扱った「ムベンベ」や「ウモッカ」ほど、イエティを本気で信じているわけではないんです。

もちろん、頭からウソだろうと馬鹿にしているわけではなく、
誰より未知生物を愛し、熱心に研究したからこそ、「いてほしいけどいる可能性は極めて低い」と正直に言えるんです。

この客観的な視点は高野秀行最大の武器ですが、考えてみれば不幸なことかもしれません。
怪獣も、UFOも、オバケも、不死身のプロレスラーも、無条件に存在を信じた方が楽しいに決まってる。

そんなわけで、「きっとここには雪男がいるはずだ!」と突っ走る、パワーと笑いに溢れた本を期待した方には、何か違うと思われるかもしれません。

だけど中盤以降の、離れた村でも似たような目撃談(おとぎ話みたいなものも多い)が繰り返し出てきて、
いるはずのなかったイエティがじわじわとリアリティを増してくる感覚は非常に新鮮。
水木しげるの子供時代を描いた漫画に出てくる妖怪みたい。
捕らえた姿は記録されていなくても、人々の中には確かに「いる」のだ。

他のブータン関連本を読んだことがないので、実は似たような内容に踏み込んでいる本もあるのかもしれませんが、
夜這いの話、女性たちの焼酎責め、ダライ・ラマの本を見た老人の反応など印象深いシーンが多くて満足度は高いです。

自分が好きになった作家はなぜか売れないんだけど、
高野秀行という人だけは別で、一作ごとに着々と知名度が上がってきている。
最初は図書館で「ワセダ三畳青春期」という本を手に取り、
「俺も貧乏だし、似た境遇の人がいるんなら読もうかな」
と偶然手にしたのだ。当時は本当に無名だったけど、まさかここまで有名になるなんて。
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