内澤旬子「日本屠畜紀行」を読んだ。

マグロ解体がショーになるならブタの解体も。 

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読後にちょっと物の見かたが変わる、濃い読書体験でした。
ふつうなら「世界でいろんな物を食べました」だけで本にすることもあるのに、屠畜というテーマは、国ごとの食文化やら宗教観やら職業に対する姿勢とか、知らなかったことがまとめて頭に入ってくるので、けっこう読み進むのが大変だった。

それでも読めたのは、この本が説教臭さがなくて、
「肉をさばく職人さんカッケー!」
という熱いミーハー心からできているのと、それぞれの現場の多彩さ。
テキサスのカウボーイから、肉食を最も嫌うイスラム圏、韓国の犬肉鍋の店まで、体当たりで取材。細かいイラストと、たいてい最初はそっけない関係者の態度がリアル。ジャマにならないように必死でスケッチしている臨場感が伝わってくる。

ひとくちに屠畜といっても方法や職人の扱いは国ごとに違って、
チェコでは肉屋は「力持ちでお金持ち」とみんなから尊敬されるし、モンゴルの遊牧民も、血を大地に垂らさずに解体できる技術を持った人はみんなから感謝される。その周りを、小さい子供は怖がって隠れるけど、大丈夫な子は肉が食べられるので楽しそうに待っている。
動物愛護団体でもない、肉は食うけどなぜか屠畜業者とは距離を置くという反応は、この本では沖縄を除く日本人と韓国人だけだ。
「その人たちのおかげで革製品を身につけ、うまい肉が食える。なのになぜ、自分にできないことができる人を尊敬できない」
この納得いかない気持ちも、本作を書くモチベーションになっている。

といっても、現代の日本の屠畜業では、あからさまな差別を受けたとか、そんな話はほぼ出てこない。実際に現場の若者にインタビューしても、
「差別とか全く知らずに来た。最初はグロくてびびった」と明るいし、この人たちが素直にかっこいい。

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豚から食肉にするのは、ただ斬ればいいってもんじゃない。
包丁を持ったことのない人が野菜をちゃんと切って人前に出せるまでにはそこそこの練習期間が必要だろう。
ましてや巨大なブタになると、重いナイフを研いで、豚を決められた通りに切り分けて、匂いが残らないように血を抜いて内臓と分けるだけで(職人の動きが速くて、どう凄いのかわからなかった所まである)とてつもなく力も技術も必要になる。
こんな事ができるという生活力の高さみたいなのが、単純に男としてかっこいい。
「生き物を殺す」汚れ役を引き受けたからすごいんじゃなくて、職人として高い技術を持っているからすごい。

あとは、仕事論の本でもある。

「つらい仕事」というのは、疲れるとか給料が安いとかじゃない。やりがいを感じられないのがつらい。
日本の職人は技術が上達する面白さや憧れを語ってくれたけど、機械化されたアメリカの大規模な加工場の職員は、仕事に喜びを感じている様子はなくて自分たちの仕事を「最低」と答える。

この手の本は深刻になりがちだけど、好奇心むき出しで世界を駆け回る面白さもあるし、血がダメで医療系ドラマすら見れない自分も読める。お勧めです。

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