どくとるマンボウに癒される。




北杜夫先生が晩年に書いたエッセイをまとめたやつを読んで、すっかりファンになりました。ユーモアのある文章とはこういうことか。達人に軽くひねられた気分だ。
「どくとるマンボウ」というシリーズがあるらしいということは知っていたけど、作者がどのような方なのか全く存じ上げなかった。本好きとして、エッセイ好きとして迂闊だった。


作者が躁と鬱の合間の、調子がいいときに書かれた短いエッセイをまとめたもので、驚くようなことは何にも書いてない。
自分はそんなに長生きを望んでないからといって夜中にラーメンを食べたり酒を隠し持っていたりする話が何度も出てくるけど、別に読者の腹が減ってくるほど細かく書かれているわけでもない。

だけど、周囲の人々の会話のやり取りが絶妙かついい感じに力が抜けていて、読んでいてクスクス癒される。
たくさん病気も経験して、ベッドの上で弱音ばかり吐いていたら、最初は「そんなことない」と反論してくれていた娘がだんだん気遣ってくれなくなって、
「本当に具合が悪そうですねえ」
「もう長いことなさそうですねえ」
と同調し始めた話とか。

海外旅行に行って、いざというときのためにと大めにあずけていた現金を、妻がごっそりスラれてしまう。意気消沈している妻に、
「自分は物書きだから、このことをネタにして元を取ってやる」
と、作家としても夫としても最高に格好いい言葉をかけてなぐさめたんだけど、冷静に考えてみると、
「海外旅行ですぐ金を盗まれた」
では原稿用紙2枚程度の短いエッセーにしかならないことに気づき、時間差で
「そんなネタで元が取れるか」
と怒りだしたという、勝手なんだか優しいんだかわからないエピソード。

病気の作者も大物作家も強気な妻子も、登場人物みんながなんともいえない優しさとおかしさで溢れている。
すごく元気なときよりも、ちょっと気持ちが弱ってるときとかに読むと、心に効きます。
中古で1円だったりするので、お勧めですよ。本の形の常備薬です。
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