穂村弘「整形前夜」に震える。 大野更紗の新作は「シャバはつらいよ」

「整形前夜」
「世界音痴」
「瞬間最大宝石」
特に意味はなく、この本に出てくるフレーズです。

歌人、穂村弘のエッセイ「整形前夜」を読んだ。
タイトルは、明日になれば何かが起きるかもという希望と恐怖の入り混じった夜のこと…で、別に作者が整形する話ではない。
日常のささいな喜びとか、司書をしていた奥さんとの楽しげな話を集めたはずなのに、時折出てくる作者の「普通の人」とは違うエピソードにぞくぞくした。

道端で何となくダンゴムシをつついていたら、親切な人が
「コンタクトレンズですか?」
と一緒に探そうとしてくれた。
正直に「ダンゴムシをつついていたんです」と答えて、相手を脅えさせた。
そして、意味のある行動をしている人でないと世間は理解してもらえない…ということを痛感してどんどん落ち込んでいく。繊細というか、ほとんど病的なものを感じる。親切に声をかけた人もさぞかし引いたことだろう。

言葉に敏感。自意識過剰。怖がり。

歌人なんだから当然だけど言葉に関するセンサーが鋭くて、ささいな言葉で喜んだり傷付いたりする。
たとえば「ヤシンデ」という題だけで本を買ってしまう。
昔の電車の絵本だ。これが「デンシヤ」「電車」だったら買っていない。
「ヤシンデ」という単語から異世界の入り口のような響きを感じ取ったのだ。

子供のころの話の細かさにも驚いた。
小学3年生のとき、来年からは生まれ変わりたいと願って、
「大晦日の、年を越す瞬間に水中にいれば生まれ変われる」
ということに決めてしまい、その「儀式」のために、年をまたぐ瞬間に風呂に潜ろうとしていたけど、親にはそれを説明できなかった。

「道路の白線だけを通って帰ろうとした」ぐらいならありがちだけど、こんなのよく覚えてるな!という驚きと、自分も忘れてるだけで、子供のころは理解不能な決まりをいっぱい作ったような気がする…という心がざわざわする感じ。
儀式は失敗してしまい、穂村少年は常に一人だった。学生時代には常に一人で、写真や記憶は消去したので修学旅行の行き先すら覚えていない。本と空想の世界に逃げ込んでいた暗黒の日々。

別に怖いエピソードが書かれているわけじゃなくて、どっちかというとくすっと笑える話の方が多いのに、読んでる間中ずっと胸がざわざわしっぱなしだった。

繊細なセンサーを持つ人には、同じ世界でもこんなふうに見えるのか!



「困ってる人」からはや3年…突然難病女子になり、生きているのがやっとの状態になった大野更紗さんの続編が出た。死にそうに苦しいときでも、海外の難民を支援することを考えている、呆れるほど生真面目な性格が好きなんです。
関連記事

コメント


トラックバック

↑