「バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌」を読む

川内有緒「バウルを探して」

海外での仕事を辞めて、これからやるべきことを見失った作者が突発的に向かったのは、アジア最貧国バングラディシュ。仕事中に耳にしてずっと気になっていた「バウル」という歌を伝える吟遊詩人たちを探す旅に出たのだ。

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数百年前に作られたという「バウルの歌」は、楽譜に残されることなく口頭だけで、現地のどのカーストにも属さない吟遊詩人たちが歌い継いでいるという。
バウルは、無形文化遺産に登録されているにも関わらず、人によって詩だ、宗教だ、哲学だ、ポップソングだと様々に言われて、こういうものだというハッキリした形がない。
肝心の歌詞も、隠喩だらけで意味がつかめない。翻訳を読んでも

「もし隣人が私に触れたら
閻魔様の苦しみもみんなかき消えたものを
そやつとそやつのラロンは同じ所にいるのに
十万も離れているのだ。」



といった感じで、何か壮大なことを言っているらしいけど、よくわからない。
うっかり現地のバスの中でバウルの話をすると、乗客たちが集まって
「この詩はこういうことを表わしている」「いや、これはこの隠喩だ」
と、みんなで詩の解釈について議論が始まってしまう。

自称バウルはたくさんいるけど、本物のバウルになるには長い修行が必要で数十人しかいないとか、定期的にバウルが集まる祭があるとか、バウルという歌も歌い手たちもハッキリしない。
だけど、旅の途中で「バウルを探している」と言うたびに、周囲の人々はみんな親切にしてくれて、決して裕福と言えない生活を送る人々からカレーをふるまわれたり、百十五歳になるというバウルの老人を紹介されたり…まるでバウルという正体のないものに導かれるように旅が進んでいく。

少しづつバウルの生き方や、彼らの考えがわかってくる。
それと並行して、作者の「自分探しの旅」という、小さいけど大切な話も進んでいく。

貧しい国に生きる人々を救うにはどうすればいいのかという大きい問題。
仕事もやめちゃったしこれからどうしよう、という等身大の問題。
両方のことが書かれていて、両方ともにちょっとだけ答えが見えてくる。

深刻な内容の本かと思ったけど(表紙とタイトルがちょっと重すぎ)読みやすくて、バングラディシュとバウルという二重の未知の世界を知る面白さがあって、なにより全編に作者の行動力と周囲への好奇心が溢れている。
読むだけで、旅に出て見聞が広まった気がする一冊です。




読みやすくて深い。
インドの旅ものは「どれだけ悲惨だったか」の話が多いけど、これはバングラディシュがどれだけ豊かな文化と親切な人々で溢れているか、一貫して書いていて地元民への敬意を感じる。
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