旦那さんも捨ててた。内澤旬子「捨てる女」

「突然あたしは、何もない部屋に住みたくなった」
家で豚を育てて食べるまでを書いた「飼い喰い」の著者が、部屋をきれいにする!
最終的には何よりも大切にしていた本を捨てるという話です。


捨てる女


普通の家でも大掃除は大変だけど、内澤旬子にとってそれはもっと大変だった。だって豚とか飼ってたし。
その前はホームレスが勝手に住み着いていた形跡があるし。さらにその前の住人は大量のタイルとか謎の五月人形とか困るものばかり残しているし。

それらをどんどん処分していく。他人が残したゴミに続いて、何十年にもわたって描いたイラストや資料、世界各国を放浪して集めた珍しい本を処分することになる。

想像していたほどガンガン捨てるわけじゃないし、知り合いの名前が急に出てきたりして最初は読みづらかったんだけど、慣れれば次々出てくるアイテムと作者さん自身の強烈な個性に引っ張られて一気に読めます。

捨てることと関係のないエピソードですが、内澤さんは若くして乳がんにかかって乳房を切除し、シリコンを入れています。
「自分の胸の形はおかしくないか」
ということを知り合いのコラムニストに相談したら、その人も性転換手術の経験者だったので、
「それよりわたしに付けてもらった女性器、ヘンじゃない?」
とお互いに悩みを相談する流れになり、そんな気になるならわたしの見てみる?と二人で裸を見せあっていた。その場に同席していた人はゲイだったので全然興味を示さなかった…

という、その場の登場人物の誰の視点にもなれねえよ!と言いたくなるパワフルなエピソードが満載。トイレ関連のエピソードも多いので食事中に読むのはお勧めしません。

こんな凄い人でも、大切な物を処分するときは悩むし落ち込む。
特に世界を旅して集めた珍しい装丁の本は、全く読めないどころか何語かわからないものすらあるのに、処分したあとはひどく落ち込んだらしい。
読んでなくても、そこに「ある」というだけで心の支えになっていたんだなあ。
なんだか新鮮だった。
いろんなモノが電子化されていくし、モノを集めて暮らすよりも広い空間に住むほうが贅沢で賢い生き方なんだと思っていたけど、読めない本を手放したことで
「離婚したときにもこんな喪失感は抱えなかった」
とまで言い切る人がいるなんて。

そう。内澤さんはこの本を書く前に離婚している。
そのことに関しては、全く後悔していないどころか触れたくもないのか、回想でさらっと語っただけ。大昔にもらった梅漬けでも名残惜しくて捨てられない人なのに。
この本に登場するものの中で、一番捨ててすっきりしたものは、もしかしたら旦那さんだったのかもしれない。
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