高野秀行「アジア未知動物紀行」 世界のUMAに迫る……のか?
最近のお気に入りルポです。


アジア未知動物紀行 ベトナム・奄美・アフガニスタン (講談社文庫)
未知動物やアジア旅行に精通したライター高野さんと、親友のカメラマン森さんが、
「猿人 フイハイ」を探しにベトナムへ。
「妖怪 ケンモン」を探して奄美に。
そして米軍の放った生物兵器説まである「凶獣 ペシャクバラング」を探して世界一危険なアフガニスタンに乗り込む。
作者本人はいたって真剣に、科学的なアプローチで未知動物を探しているのに、それがパートナーにすら理解されず…でも、変だけど害はない日本人として地元の人たちに受け入れられていって最終的には国を越えた交流になったのでした、という不思議な本。UMA探索本のジャンルを跳び越えて、どっちかというと旅行ルポに近い後味になっている。
たとえばベトナムでは「フイハイ」を見たことはありますか、と現地の人々に片っ端から声をかけて、共通点を集めたり信用できるものとそうでないものを選別していくんだけど、あまりにもしつこく証言を集めて、少しでも疑問があると徹底的に追及していたために、最初は通訳兼ガイドのフンさんという人が「そこはもういいだろう」という態度を見せるんだけど、最後の最後になって
「私たちの言うことをこんなに真剣に聞いてくれたのは初めてだよ。すごく嬉しい」
と心を開いて、ベトナムの民族情勢に関する意見を少しだけ話してくれる。
その話が明らかに、知り合ったばかりの外国人に話すような内容ではないので、ああ本当に信頼してくれたんだ、ということがわかる。猿人フイハイを通した国際交流。旅の本来の目的とは全然違う方向になってるけど。
フイハイが動物というより、地元に伝わる精霊のようなものだと気付いたときに高野さんが放心しながら
「ダメだ……こりゃ、妖怪だよ。……どうしよう、ここまで来て」
と落ち込んでると、単なるカメラマンの相棒は
「未知動物と妖怪って、違うんですか?」
と直球で聞いてきて、そこから妖怪とUMAの違いについて真剣に語り始めるシュールな光景に笑ってしまう。未知動物をめぐる人たちの真剣度がみんな違うので、やりとりがチグハグなのも面白い。
そしてタリバン崩壊前のアフガニスタンで多くの地元住人を襲い、米軍が放った生物兵器説もある「ペシャクバラング」調査では、地元の人々と交流するだけでなく、最終的におそらくこれが正体ではないか、というところまで判明する。
そして通訳担当の美青年が危険な仕事をする本当の理由も(別にそんなことを調べに行ったわけじゃないのに)判明する。
危険なアドベンチャー要素を求めていた読者からしてみれば「なんかちがう」という感想になるだろうけど、これはUMA本とも旅行記とも違う味の新ジャンルの本として評価されるべきであって、
「危険を冒さなくなったから作者もパワーダウンしてきた」
なんて感想は間違っとる!お前はわかっとらん!と強く否定したくなるのである。
アジア未知動物紀行 ベトナム・奄美・アフガニスタン (講談社文庫)
未知動物やアジア旅行に精通したライター高野さんと、親友のカメラマン森さんが、
「猿人 フイハイ」を探しにベトナムへ。
「妖怪 ケンモン」を探して奄美に。
そして米軍の放った生物兵器説まである「凶獣 ペシャクバラング」を探して世界一危険なアフガニスタンに乗り込む。
作者本人はいたって真剣に、科学的なアプローチで未知動物を探しているのに、それがパートナーにすら理解されず…でも、変だけど害はない日本人として地元の人たちに受け入れられていって最終的には国を越えた交流になったのでした、という不思議な本。UMA探索本のジャンルを跳び越えて、どっちかというと旅行ルポに近い後味になっている。
たとえばベトナムでは「フイハイ」を見たことはありますか、と現地の人々に片っ端から声をかけて、共通点を集めたり信用できるものとそうでないものを選別していくんだけど、あまりにもしつこく証言を集めて、少しでも疑問があると徹底的に追及していたために、最初は通訳兼ガイドのフンさんという人が「そこはもういいだろう」という態度を見せるんだけど、最後の最後になって
「私たちの言うことをこんなに真剣に聞いてくれたのは初めてだよ。すごく嬉しい」
と心を開いて、ベトナムの民族情勢に関する意見を少しだけ話してくれる。
その話が明らかに、知り合ったばかりの外国人に話すような内容ではないので、ああ本当に信頼してくれたんだ、ということがわかる。猿人フイハイを通した国際交流。旅の本来の目的とは全然違う方向になってるけど。
フイハイが動物というより、地元に伝わる精霊のようなものだと気付いたときに高野さんが放心しながら
「ダメだ……こりゃ、妖怪だよ。……どうしよう、ここまで来て」
と落ち込んでると、単なるカメラマンの相棒は
「未知動物と妖怪って、違うんですか?」
と直球で聞いてきて、そこから妖怪とUMAの違いについて真剣に語り始めるシュールな光景に笑ってしまう。未知動物をめぐる人たちの真剣度がみんな違うので、やりとりがチグハグなのも面白い。
そしてタリバン崩壊前のアフガニスタンで多くの地元住人を襲い、米軍が放った生物兵器説もある「ペシャクバラング」調査では、地元の人々と交流するだけでなく、最終的におそらくこれが正体ではないか、というところまで判明する。
そして通訳担当の美青年が危険な仕事をする本当の理由も(別にそんなことを調べに行ったわけじゃないのに)判明する。
危険なアドベンチャー要素を求めていた読者からしてみれば「なんかちがう」という感想になるだろうけど、これはUMA本とも旅行記とも違う味の新ジャンルの本として評価されるべきであって、
「危険を冒さなくなったから作者もパワーダウンしてきた」
なんて感想は間違っとる!お前はわかっとらん!と強く否定したくなるのである。
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