角幡唯介「アグルーカの行方」感想

【129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極】

作者は早稲田大学を卒業して朝日新聞に入社し、若くして高給を得ていたエリートだったが、自分の生きるべき場所を求めて決死の冒険を続けている人。
冒険の過酷さだけではなく、純粋に文章力だけで勝負しても専業の作家を上回ってしまうという、現在日本で最も冒険作家を名乗るにふさわしい「ホンモノ」だ。ノンフィクション好きで、この人の本と出会えて良かった。

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今回の舞台は北極。
英国「フランクリン探検隊」はかつて北極を踏破したものの、隊員はみな死んで、かろうじてアグルーカと呼ばれた生き残りが南の不毛地帯へ歩いて行った…と先住民イヌイットの話から明らかになっていた。

角幡さんは今作で、フランクリン探検隊が通ったといわれるルートを辿って北極を踏破する。
彼らの旅の真実を知りたい、あわよくば北極のどこかにあるというフランクリンの墓を発見したい。
…と書いてあるけど本当の目的はそんなことではなく、フランクリンという英国の冒険家と自分に何か通じるものを見つけてしまい、ただフランクリンが見ていた景色を自分も見たかった、というだけのために旅をしているように見える。

旅の過酷さを売り文句にしているけど、実はロマンチックな本なのです。
そう!ロマンチック!

北極の壮大な自然と、たどりついた村での人々の出会い、そして、現在の日本人が会ったこともない英国のフランクリンという冒険家に共感してその足跡を辿って行くという行動自体がきれいなんです。


構成も凝っていて、フランクリン隊の物語と、現在日本の角幡唯介の話を交互に読み進めていくようになっている。
フランクリンが一歩すすむ。角幡さんも同じだけ一歩すすむ。
これを繰り返して進んでいく。

フランクリン隊のパートで
「冒険序盤で隊員の墓が見つかり、メモも残されてないのはなぜか」
「途中で致命的なルート選択ミスをおかした原因は」
などの謎が小出しに出てきて、歴史ミステリーの味付けまであってエンタメ性も高く、飽きさせない。

もちろん現代の角幡パートも、重いソリをひいて毎日20キロ歩くので1日5000キロカロリー摂取しても痩せていくとか、気温によって川が凍っていて、踏み抜けば即死の場所でルートを決めなければいけない場面など、ハラハラしながら読める。

過酷なのに面白い。過酷なのにロマンチック。

北極探検というテーマ自体で、どうしても興味を持てない人はいるかもしれないけど、「大会社の安定を捨て、生きる意味を探しに行く」男に少しでも共感できる人なら絶対角幡作品はおさえておくべきだと思う。


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