卯月妙子「人間仮免中」は、見事なまでに表紙詐欺の自伝マンガであった

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楽しそうに歩いている男女が描かれた表紙と、感動的な内容を匂わせる帯文句につられて読むと、その内容とのギャップに絶句するはずだ。
絵のタッチは西原理恵子を思わせるけど、悲惨な内容をしっかり食べやすいように調理・味付けして感動的作品に仕上げている西原理恵子と違って、こっちは、ただ、ただ、むき出し。同情も感動もしてもらおうとしてない、裸の自分をさらけ出して解釈は読者まかせという潔さ。


統合失調症が悪化して、妄想や幻覚が止まらなくなった作者は、不思議な万能感に支配されて歩道橋の上から飛び降りてしまう。
背中には死んだ昔の男の戒名が彫られて、腕も首も自殺未遂の傷跡だらけ。道路に顔から落ちた衝撃で歯も口も原型を失い、片目の位置は上にずれてしまって視力も失い、別人のようになってしまう。
さらに入院中もずっと「看護師が自分を殺す相談をしている」という妄想にとりつかれて、見舞いに来た最大の理解者である恋人に意味不明なメモを渡したりする。
体も心も、人間というにはギリギリのライン。まさに仮免状態でかろうじて生きている。


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はっきり言って、読んで楽しいと感じるようなものではないし、二回り以上年上の恋人に信じてもらいたくてあっさり女性器に名前の入れ墨をしちゃう作者に感情移入できる人もほとんどいまい。これまでに自分が読んでいた「マンガ」とは別の読み物だ。別世界の人々だ。ただ、唖然とするばかり。
闘病記を読んだ後の、
「自分にもこんな大変な日がくるかもしれない」
「たいへんな目にあっても頑張って生きよう」
といった生ぬるい感想すら浮かばない。

感動するところがあるとすれば、作者は表現者であり、「このまま生きるか、死ぬほど苦しくてもマンガを描くか」という二択をつきつけられたとき、
「薬を山のように飲んでフラフラになりながらも描く」ことを選んだという事実に感動する。

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