角野史比古「たたかうソムリエ」を読んだ。

角野史比古「たたかうソムリエ」は、2010年にチリで行われた「世界最優秀ソムリエコンクール」のルポです。
ワイン知識がある人はもちろん、ワインにちょっと偏見がある人にまで向けて書かれています。

ぼくもワインはほとんど飲んだことがないし、テイスティングも、
「芸能人格付け選手権」って番組で2本のワインを飲んで、
どっちがスーパーの安物で、どっちが高級ワインでしょう、というクイズをやっているのしか見たことありません。

あの企画が成立するのは、
「高級ワイン飲んでる奴らはいけ好かない連中で、本当は安物との区別もつかないんだろ」と思ってる人が少なからずいるからでしょう。

だけど、この本には一般人がイメージする、「ワイン好きな、いけすかない金持ち」は一人もいません。

まず日本人にとって感情移入しやすかったのが、これが「チリ大会」だということ。
チリは日本と並ぶ地震大国で、この本に出てくるワイン生産者たちもまた、地震で財産を失ったが、生き残ったブドウ畑を見て「まだブドウが残っている。ブドウがあればワインが作れる」と頑張った人たちです。
ソムリエは、苦労して作ったワインを受け取り、最大限に良い時間を過ごしてもらいたいから細心の注意を払う。産地を紹介して、マッチする料理を提案して、客には日常から切り離された空間を提供する。

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では、ソムリエの技量とは何なのか。
冒頭で、アジア・オセアニア代表の森覚さんが、品種を聞かずにワインをテイスティングする様子が出てきます。制限時間は4分。ソムリエは日常生活を思わせる腕時計をつけないので。全て体内時計で初めてみるワインを観察します。

見た目は白ワイン。甘いフルーツの香りがしたから、暖かい地方をイメージする。
そのあと軽くまぜて空気に触れると、香りが変化する。ここでミネラル感を嗅ぐ。
(ミネラルの匂いというのが嗅げるらしい)
さらに凄いことに、ミネラル感から、原料のブドウの木の根っこをイメージする。
たとえばフランスなら長い間ブドウを育てているので、ブドウの根が長くて、土からしっかり養分を吸い上げているので、ミネラルを感じる。
ワインの表面に気泡が残っているのは、スクリューキャップでしめられたここ2,3年の新しいワインである。2008か2009年。南半球だと収穫が半年早いから、2008年。

…ということを推理しながら、産地、品名、アルコールの強さや、適正な温度などを解説し、そしてワインに合う料理を提案する。

「このワインは中ぐらいのチューリップ型グラスで十度から十二度で出されるべきです。このワインは今、飲むことができます。そして少なくとも五年はワインセラーに貯蔵することができます」

「シャルドネ(葡萄品種)から作られています。2008年。南オーストラリア、マクラーレン・ヴェイル産のものです」



この訓練を森さんは、奥さんに協力してもらって結婚以来毎日行っています。英語で!


ソムリエコンテストは、参加者にとって平等になるように母国語の使用が禁止されているのです。しかも、テーブルにつく審査員は過去の優勝者たち。

また、コンテストで出される問題はどれひとつ完璧にはできないほど難しい。
だけど、完全にこなせないからこそソムリエごとの個性が出てくるのが面白いです。

短い制限時間の中で、この客に合うワインを提供しなさい、という問題が出るとする。
ゆっくりワインを注いで解説する余裕はない。
だけど、完璧にすべき部分と重要ではない部分がある。
ワインの生産年を当てられなくても大きな減点にはならないけど、ワインをこぼしたり、女性に先に注がなかったりしたら、直接客の不快感につながるので減点になる。

最終決戦に残ったソムリエたちは、極限の緊張感の中でテイスティングしたワインをどのようにコメントするのか、が最大のクライマックスになります。


これまで食欲を刺激してくる本をいろいろ読みましたし、実際に本の中の食べ方を真似したことが何度かあったけど、たたかうソムリエはあんまりワインを飲みたいとは思わなかった(笑)
どっちかというとワインよりも、そこに出てくる人たちの能力や態度に驚かされました。


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