いじめ自殺がテーマだけど、青春小説でもある「沈黙の町で」読了

他人の不幸は、蜜の味ほど甘くはないが、涙を流すほど苦くもない。
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奥田英朗「沈黙の町で」あっという間に読了。
同作者のほとんどの作品が好きだけど、ブラックで物量も凄い「最悪」「邪魔」という2作品は途中でギブアップ。


田舎町の中学校で、テニス部の少年が部室棟の屋根から飛び降りて死ぬという事件が起きる。
同じテニス部の同級生4人組は、少年をいじめていたこと、屋根から近くの銀杏の木に飛び移って遊ぶことがあったのは認めたものの、それを強要したことだけは否認。

遺体の背中には強くつねられたと思われる多数の内出血跡が見つかり、携帯からはジュースを買うように命令されるメールが見つかった。
いじめグループのリーダー格と見られる少年の母親は、
「うちの子はいい子なのに、体が大きくて無愛想だから誤解されやすい」と反発する。
少年グループが警察に出頭したときは全員がメールの履歴を削除してあり、口裏合わせがあったものと思われた。

ひとつの事件をめぐって、話は複数の登場人物の視点で語られる。
母子家庭で苦労して育てた息子を守ろうとするいじめグループの母、
なんとしても彼らに自白させたいと意気込む警察、
被害者宅へのインタビューをすることになったマスコミ、
心労で食事が喉を通らない教師、
事件に関わることになった検事と弁護士、
いじめグループの少年にノートを貸してあげたいと申し出たクラス委員の女子など。

序盤は事件から一歩引いた大人たちの視点を中心に、だんだんと事件に距離の近い生徒たちの視点に移り変わってくる。
序盤こそちょっとしたミステリーかワイドショー感覚で読み始めたのに、
読んだ後の胸のざわめきが凄い。
重い内容と新聞連載という相性は良くて、子供が殺人に関与したかどうかで思い悩む母親のエピソードも、息が詰まりそうなのにあとちょっと、あとちょっとと読んでしまう。

読んだ誰もが、味方する価値もないと思っていたいじめグループ4人に、だんだん感情移入していく。
逆に、かわいそうだと思った被害者側がだんだん嫌な人たちに見えてくる。
善悪が入れ替わっていく感覚が面白くて怖い。

母親たちが一貫して息子の味方なのと、子供たちの、危ういながらもなんとか生きていこうとする姿に胸が熱くなった。


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コメント

藍色 #-

リアルで詳細な記述の完成度の高い小説でした。
登場人物の一人ひとりの性格や心理を描き分け、
惹きつけて離さない物語に仕上げた筆力に驚嘆でした。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。

2016年12月06日(火) 11時56分 | URL | 編集


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「沈黙の町で」奥田英朗

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