角幡唯介「極夜行」太陽が昇らない暗黒の北極圏を、「GPS禁止ルール」で旅するノンフィクション
角幡唯介「極夜行」
3か月も太陽が昇らない暗黒の北極圏を、「GPS禁止ルール」で旅するノンフィクション。
極地探検本なのに精神的に「くる」一冊だった。


まず、世界がどこでもワンクリックで見れる時代に、冒険の意味って何? という問題がある。
地図の空白地に行って、世界の謎を解き明かし、危機と引き換えに生の実感を得る。そんな旅ができない。
そこで思いついた旅が「極地行」だ。
星で方角を確かめて、月明りで危険な動物や地形を見る。
ドライブやハイキングを想像するとわかるが、「GPS禁止」で、旅の難易度と不安が大幅に上がる。
「場所」としては経験済みでも、この日のために勉強した星の見方と、このために訓練した犬と旅することで、違う場所になる。
そして旅の終わりには、命を与えてくれる本物の太陽を見る。
人生観も変わるだろうし、コンセプトとして、読み物として、新しい。ネット普及後の探検本として完璧だろう!と思っていると、序盤から、闇の神の往復ビンタみたいな強烈ブリザードが、極地用テントを右に左に張り倒す。
いきなり不穏なムードで始まる旅。
明るい極地探検は慣れていた作者を、闇が押し潰す。
足元の氷が割れれば死。背後にクマがいても死。そもそも方角がずれていれば死。
終わらない夜に、
「自分は本当に正しい方角に進んでいるのか?」と嫌でも考え始めてしまう。
立っている場所が「下り坂」か「上り」かすらわからなくなる。
感覚のない、死後の世界。
孤独を癒して、危険を知らせてくれるのは犬だけだ。
星の導きだけを頼りに歩いていると、星々が女や男に思えてくる。
人はなぜ、意味のない星の並びを「星座」に見立ててストーリーを作ったのか。都会ではわかりようもなかった。
途中で、心をへし折られるような出来事が連続し、食料も少なくなった作者に判断が求められる。
予定通り北上か、いったん下がるか。
北は麝香牛やウサギの生息地帯のはずだ。狩りをすれば食料になる。
問題は、月光だけで、牛を仕留める射程範囲に入れるかどうか。
目くろみがはずれた場合、旅のパートナーで、必死でソリを引いてくれている犬を食うことになる。
犬をなでて、狼のような体がしぼんでいることに涙しながら、
同時に「食えば生還はできる」と冷静に考える。
すでに作者は、人口の明かりや加工済み食品にあふれた国ではありえない発想と行動をしている。
今作では、文章がだんだんおかしくなっていくのが怖い。
元記者でガッチリ読み応えのある本を書く人だったのに、今回あきらかに比喩もおかしいし、突然過去の思い出語りを始めたり、奇声を上げて犬をビクっとさせたり、闇がどれだけストレスかがわかる。
未知の世界を探求することにこだわっていた作者は、「地図にのっている未知の世界」を歩いているのだ。

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3か月も太陽が昇らない暗黒の北極圏を、「GPS禁止ルール」で旅するノンフィクション。
極地探検本なのに精神的に「くる」一冊だった。
まず、世界がどこでもワンクリックで見れる時代に、冒険の意味って何? という問題がある。
地図の空白地に行って、世界の謎を解き明かし、危機と引き換えに生の実感を得る。そんな旅ができない。
そこで思いついた旅が「極地行」だ。
星で方角を確かめて、月明りで危険な動物や地形を見る。
ドライブやハイキングを想像するとわかるが、「GPS禁止」で、旅の難易度と不安が大幅に上がる。
「場所」としては経験済みでも、この日のために勉強した星の見方と、このために訓練した犬と旅することで、違う場所になる。
そして旅の終わりには、命を与えてくれる本物の太陽を見る。
人生観も変わるだろうし、コンセプトとして、読み物として、新しい。ネット普及後の探検本として完璧だろう!と思っていると、序盤から、闇の神の往復ビンタみたいな強烈ブリザードが、極地用テントを右に左に張り倒す。
いきなり不穏なムードで始まる旅。
明るい極地探検は慣れていた作者を、闇が押し潰す。
足元の氷が割れれば死。背後にクマがいても死。そもそも方角がずれていれば死。
終わらない夜に、
「自分は本当に正しい方角に進んでいるのか?」と嫌でも考え始めてしまう。
立っている場所が「下り坂」か「上り」かすらわからなくなる。
感覚のない、死後の世界。
孤独を癒して、危険を知らせてくれるのは犬だけだ。
星の導きだけを頼りに歩いていると、星々が女や男に思えてくる。
人はなぜ、意味のない星の並びを「星座」に見立ててストーリーを作ったのか。都会ではわかりようもなかった。
途中で、心をへし折られるような出来事が連続し、食料も少なくなった作者に判断が求められる。
予定通り北上か、いったん下がるか。
北は麝香牛やウサギの生息地帯のはずだ。狩りをすれば食料になる。
問題は、月光だけで、牛を仕留める射程範囲に入れるかどうか。
目くろみがはずれた場合、旅のパートナーで、必死でソリを引いてくれている犬を食うことになる。
犬をなでて、狼のような体がしぼんでいることに涙しながら、
同時に「食えば生還はできる」と冷静に考える。
すでに作者は、人口の明かりや加工済み食品にあふれた国ではありえない発想と行動をしている。
今作では、文章がだんだんおかしくなっていくのが怖い。
元記者でガッチリ読み応えのある本を書く人だったのに、今回あきらかに比喩もおかしいし、突然過去の思い出語りを始めたり、奇声を上げて犬をビクっとさせたり、闇がどれだけストレスかがわかる。
未知の世界を探求することにこだわっていた作者は、「地図にのっている未知の世界」を歩いているのだ。

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