細かすぎて報道されなかった高校野球芸人「サブロクモンキーズ」そうすけの四国アイランドリーグ挑戦記レビュー


元野球選手の杉浦投手。
またはお笑いコンビ「360°(サブロク)モンキーズ」杉浦そうすけの、独立リーグ挑戦記。
野球の話だけど、野球をしてない人の人生と重ねやすい一冊だ。



作者は「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」の常連。
「ヴェー、ヴェー、ベーベーベー…」
と応援歌を口ずさみながら、往年の外国人バッターのモノマネをするネタで、番組では人気者になるが、ブレイクしないまま40歳。

子供のころの夢は野球選手で、全国制覇した翌年の帝京高校野球部で3年間をすごした野球芸人でもある。
だが、帝京では名門校の厳しい現実に、1軍にいることさえできず挫折。
卒業文集にこう書いた。
「入学のときはプロ野球選手が夢だったけど、今はお笑い芸人が夢になった。ガンバル。」

今でも芸人仲間の草野球では誰よりも真剣。甲子園で活躍する球児を見ると、憧れと嫉妬でつい熱くなってしまう。


そんなとき、独立リーグの存在を知った。
一般的にプロ野球と聞いて思い浮かぶNPB(日本プロ野球機構)とは別に、全国各地に独立したリーグがある。
今からでも、野球選手になれないだろうか? 考え始めると、自分にウソはつけない。
全力で挑戦して、夢にケリをつけよう。杉浦はテスト費用の20万円をかき集める。


2016年、四国アイランドリーグの「愛媛マンダリンパイレーツ」に入団した杉浦。
待っていたのは、過酷な走り込みと「駅のそうじ当番」。
練習の合間に清掃活動や少年野球のコーチをしながら、月収は手取り7万円。グラウンドが使えず、壁当ての音がうるさいと怒られた選手もいる。

去年までNPBで活躍していた選手も、甲子園で脚光を浴びた選手も、野球にしがみついて生きている。子供のころ憧れた野球選手はこんな生活じゃなかったはずだ。

そして苦労してマウンドに上がった杉浦だが、勝負にならない。1打席に人生をかけているバッターは、こんなにでかいのか。こんなに怖いのか。
球場に来てくれた観衆をがっかりさせるイメージしか浮かばない。
先頭打者にフォアボールを出す最悪のパターンで交代。


弱音を吐いた杉浦に、かつてドラフト1位で日ハムに入団した正田樹が声をかけた。
「バッターの方が絶対プレッシャー感じてますよ」

そうだ!
ここにいるみんなは、夢を諦めるかどうかの崖っぷちにいる。そこに一回り年上のお笑い芸人が出てきたらどう思うか。
「こいつの球が打てなかったら終わりだ」と思うはずだ。怖いのはお互い様だ。
たくさんのチームを渡り歩いた正田選手は「40歳・芸人」と戦うことがどれだけ嫌かわかっていた。


必死で強さを得ようと練習していたけど、最初から持って、コンプレックスだった「40歳・芸人」の肩書きが武器だったことに気付く。

野球選手を目指す人から見れば、芸人になることは回り道でしかない。
子供のころから芸人だけを夢見て専念していれば、今頃売れっ子になれたかもしれない。
だけど、回り道をしたから得た能力もある。経験できないこともある。


毎年、独立リーグのメンバーは毎年大きく変わる。
「自分はプロで通用しない」と受け入れた選手は退団して、野球と離れた人生を歩む。

もう二度と同じメンバーで野球ができない。
そう思ったとき、数試合しかマウンドに上がれなかった「おっさん球児」の目にも、高校球児たちと同じ純度の涙が光るのだ。


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