のむらしんぼ「コロコロ創刊伝説 3巻」

コロコロコミック創刊からを語る「コロコロ創刊伝説」3巻。九州から2人の熱い男、MOO.念平と小林よしのり登場。



「真実の物語」といいつつ、小林よしのりがマンガを描くと熱でエアコンがきかなくなる。
ギャグ表現もあるが、その中に本当がある。
子供のころにふれたアレもアレも、大人が本気で作ったものだった! 過去の話だけど読者に懐しむ間を与えない。

行き詰まっていたのむらしんぼに何かが降り、ついに「セコい男だから描けるマンガ」つるピカハゲ丸が完成。
まともな大人はこのタイトルに到達できない!

好き嫌いは分かれるものの、自信とパワーに溢れた小林よしのりと、
周囲に支えられて苦しみながらもヒット作を生んだのむらしんぼ。
同時期に金持ちギャグと貧乏ギャグを連載していた2人。

おぼっちゃまくんはドラえもんに変わってコロコロの顔になる勢いで大爆発するが、わずか8ページのハゲ丸は分厚いコロコロに埋もれて、連載が始まったのに見つけてもらえない。
話数を重ねることに、1巻2話のアンケート結果に、なぜバンザイして喜んでいたのかわかる。

取材のために訪ねても、未来の話を始めてしまう小林よしのり。
つまり、コロコロ創刊伝説は小林には描けない。わしが天才だ、で終わってしまう。
過去を振り返りがちで他人をスゴイ!と思える男、のむらしんぼだから描ける。

ヒット作は簡単には作れないけど、「自分には無理」とやる前に諦めず、しつこくしつこく立ち上がれば、自分にしかできない役割が降ってくることもある。
作中の編集者が繰り返す。コロコロの子供向けマンガは、主人公のキャラが命と。
かっこ悪くても熱い主人公に読者は共感する。
この漫画も、コロコロの漫画だ。
主人公はのむらしんぼ自身だ。
天才ではない、還暦で家族に愛想をつかされた借金男がコロコロの主人公にふさわしくなっていく。だめな男が、自分だけにしかできないことに本気で挑み、過去のライバルたちの力を借りて大きな仕事に挑む。
それが、リアルタイムで現在の借金生活を変える!過去の話でありながら今の読者に元気を与え、ライブ感がある。
コロコロに限らず、子供時代に夢中になった何かがあれば楽しめるだろう。


「おぼっちゃまくん」1話目の表紙も出ているが、茶魔に次いで学校と教師がドンと出ている。
このマンガは友達の家にあったのを見た記憶しかないけど、そういえばスパルタ学園に転校生として登場する話だった!

悪ガキがケンカに明け暮れる「あまいぞ!男吾」が健全な香りがして、おぼっちゃまくんに苦情が殺到したのが面白い。大人が押し付けるスパルタ教育を、金で子供が破壊していく。パンクだ。良識をギャグで破壊する。

覚えているのは、ライバルが腕時計を自慢するくだり。
茶魔に張り合おうとする袋小路くんは、高級時計を両手両足につけている。
しかし、時計を持ってないと言われた茶魔は、合図をひとつ。
すると、お手伝いさんがさっと現れて、時刻を教えてくれる。
時計を持たなくても、合図ひとつでどこにでも現れて時間を正確に伝えるだけの、時計役が待機して24時間見守っているのだ!
高級車に乗って自慢するより、本物の金持ちは免許を持たず運転手を雇っているのと同じ!
高級ブランドもわからない、腕時計で得意げにすることが理解できない子供にも、どちらが格上かわかるのだ。

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海外大手アニメサイト「クランチロール」、年間ベスト漫画に「ゴールデンカムイ」「弟の夫」をおさえ、あえて「レズ風俗レポ」を推した!

※今日の記事は個人的に調べただけなので、間違い、勘違いもあるかもしれん。

海外のアニメ配信サイト大手のCrunchyrollでは、毎年ベストアニメ、ベストキャラクターなどなどを選出している。
去年は「ユーリ!!!」の圧倒、今回は「僕のヒーローアカデミア」無双だった。

その中に「ベスト漫画」部門もある。2017年に翻訳出版された日本漫画のアカデミー賞。
ノミネート作品が

・ダンジョン飯
・昭和元禄落語心中
・弟の夫
・この世界の片隅に
・ゴールデンカムイ
・さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ



だったらしいんだけど、
濃くないですか?
明らかに「楽しかったからこれ」「売れたからこれ」ってチョイスじゃない。

超古参アニメファンサイトの管理人や、ジョジョやデビルマンを翻訳した経歴があったりの筋金入りオタク達がチョイスしたら、こうなったらしい。

受賞したのは永田カビ「さびしすぎてレズ風俗に生きましたレポ」。
何度もレビューするぐらい個人的には大ファンだけど、よくこれを推したな、と思う。

全部読んだわけじゃないけど、完成度では「ゴールデンカムイ」「弟の夫」ですよ。パラっと読んだだけでも、画力、ストーリー、題材、もうこれは絶対凄い、匠の技やで、と認めるしかないような。


批判覚悟で、あえて今年ベストはレズ風俗のやつにしましょうと押し通した選考員。何か考えがあったのだろうか。

ノミネート作品に共通するのは、作品に「日本」成分が強めに入っているなと。
ファンタジー世界のような「ダンジョン飯」だって、西洋の世界観がまわりまわって日本のグルメ漫画界と融合した、たらこスパゲティみたいなものだ。

漫画は日本で成長した、日本を知ることのできるメディア。
「日本人はジャッキーチェンしか知らないよ」みたいな欧米人に読ませたら、
「えっ、日本って、漫画ってこんななの?」
と驚かせるような。好き嫌いは分かれても、刺さった人は日本旅行や日本語の勉強を始めてしまうような尖った作品が並んでいるように感じた。


漫画には女子高生とバイオレンスが多い。それが悪いとは言わないけど。B級ホラー映画があってこそ名画も輝くけど。それでも書店のマンガコーナーに行くと胸やけしてしまう。

その中で「こういうマンガもある、こんな題材で描かれたのがあるんだぞ」と、
「漫画を知らない人」にドンと突きつけられる作品。
気晴らしに楽しく読めるだけじゃなく、「漫画」の地位を押し上げてくれるような作品。

「レズ風俗レポ」は、鬱、拒食、家庭環境、人に合わせられない性格など、問題を抱え込んでぼろぼろだった作者が、抑え込んでいた性への希求を描く漫画だ。
他ノミネート作品との違いは、エリートコースではない無名作家のエッセイであること。
発売にはSNSの後押しがあったこと。

生きづらさに圧し潰されている、無名の、個人の叫びが作品になる。
映画になりますか。簡単にはならないよ。重いよ。売れないよ。でも漫画ならできます。漫画がなかったら、この叫びは消えていました。
pixivって発表の場があって、SNSでこういうものも支持する流れがある。アジアで女性が性についてオープンに話しているのはイメージしづらいかもしれないけど、現代日本には、これを支持する風潮はあります。

作品の周囲のことも含めて、現代と漫画と日本をいちばん持っていたのが「レズ風俗」だろうとあえて、受賞させたんだと思う。話題性だけじゃなく、いろいろ考てのことだと思う。
(いきなりこれが出ちゃったから、作者がその後の展開に苦労しているのがつらいけど)
おめでとうございます。



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角幡唯介「極夜行」太陽が昇らない暗黒の北極圏を、「GPS禁止ルール」で旅するノンフィクション 

角幡唯介「極夜行」

3か月も太陽が昇らない暗黒の北極圏を、「GPS禁止ルール」で旅するノンフィクション。
極地探検本なのに精神的に「くる」一冊だった。



まず、世界がどこでもワンクリックで見れる時代に、冒険の意味って何? という問題がある。

地図の空白地に行って、世界の謎を解き明かし、危機と引き換えに生の実感を得る。そんな旅ができない。

そこで思いついた旅が「極地行」だ。
星で方角を確かめて、月明りで危険な動物や地形を見る。
ドライブやハイキングを想像するとわかるが、「GPS禁止」で、旅の難易度と不安が大幅に上がる。

「場所」としては経験済みでも、この日のために勉強した星の見方と、このために訓練した犬と旅することで、違う場所になる。
そして旅の終わりには、命を与えてくれる本物の太陽を見る。
人生観も変わるだろうし、コンセプトとして、読み物として、新しい。ネット普及後の探検本として完璧だろう!と思っていると、序盤から、闇の神の往復ビンタみたいな強烈ブリザードが、極地用テントを右に左に張り倒す。

いきなり不穏なムードで始まる旅。
明るい極地探検は慣れていた作者を、闇が押し潰す。
足元の氷が割れれば死。背後にクマがいても死。そもそも方角がずれていれば死。
終わらない夜に、
「自分は本当に正しい方角に進んでいるのか?」と嫌でも考え始めてしまう。

立っている場所が「下り坂」か「上り」かすらわからなくなる。
感覚のない、死後の世界。
孤独を癒して、危険を知らせてくれるのは犬だけだ。

星の導きだけを頼りに歩いていると、星々が女や男に思えてくる。
人はなぜ、意味のない星の並びを「星座」に見立ててストーリーを作ったのか。都会ではわかりようもなかった。


途中で、心をへし折られるような出来事が連続し、食料も少なくなった作者に判断が求められる。
予定通り北上か、いったん下がるか。
北は麝香牛やウサギの生息地帯のはずだ。狩りをすれば食料になる。

問題は、月光だけで、牛を仕留める射程範囲に入れるかどうか。

目くろみがはずれた場合、旅のパートナーで、必死でソリを引いてくれている犬を食うことになる。

犬をなでて、狼のような体がしぼんでいることに涙しながら、
同時に「食えば生還はできる」と冷静に考える。
すでに作者は、人口の明かりや加工済み食品にあふれた国ではありえない発想と行動をしている。

今作では、文章がだんだんおかしくなっていくのが怖い。
元記者でガッチリ読み応えのある本を書く人だったのに、今回あきらかに比喩もおかしいし、突然過去の思い出語りを始めたり、奇声を上げて犬をビクっとさせたり、闇がどれだけストレスかがわかる。

未知の世界を探求することにこだわっていた作者は、「地図にのっている未知の世界」を歩いているのだ。




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「日本のお笑いは劣っている」結局、茂木ツイートに芸人は反論できるのか「世にも奇妙なニッポンのお笑い」


冒頭で茂木健一郎のツイートが紹介される。
「日本のお笑いは欧米のように社会批判の要素がなくて劣っている」
このツイートきっかけで一冊の本ができあがった。


「世にも奇妙なニッポンのお笑い」


チャド・マレーンは、吉本初の外国人芸人で映画翻訳家。

交換留学で知った「ガキの使い」に魅了されて通った、関西のお笑い養成所。
学費が1年分一括払いだった。
今は半年分づつ払える。
「面白い」と言われて入ったほとんどが、本当に面白い人が多すぎる現実に折れて、半年以内に辞めるからだ。


大阪は世界一の芸人密集地地帯。オーディションの制限時間も短い。
2分で、1分で、他の芸人と違うどんな笑いができるのか示さないといけない。
そんな環境でふるい落とされて、生き残ったネタは緻密かつ細分化されている。

欧米のスタンダップ・コメディは、話題は人種、宗教、政治、下ネタ。
ゆったり時間をとって喋るので大人っぽい笑いに見えるが、日本のお笑いを経験して見ると、笑いのバリエーションが少なく感じるらしい。

「ガキ使」は、勝手にYouTubeにアップされて、国境を越えた有名番組になっている。
人気があるのは図書館で声をひそめて罰ゲームをする「サイレント図書館」。
スペインでは毎週この企画だけの番組が始まった。
長寿番組のワンコーナーが、他国ではひとつの番組になる。言葉の壁に阻まれて伝わっていないが、日本の笑いの多彩さ、企画力は圧倒的だ。


陣内智則は、自分のセンスで世界に挑戦したいと、ほぼ日本のネタそのままでロサンゼルス、ラスベガス公演に挑戦した。その意気込みに共感してネタの翻訳をしたのがチャドだ。

「ドライビングシミュレーター」のネタでは、道路の映像が流れて、横で陣内はハンドルを握っている。
チャドは、映像を左右反転させて右側通行にした。
「ジーンズメイト」ばかりの道は、アメリカによくある「J.C.ペニー」ばかりの道になった。

道路を車が横切る。
通り過ぎたので発車しようとすると、今度は長い長いトレーラーが横切る。
それだけで笑いが起きて、陣内のツッコミでもう一度ウケる。

日本版から変えたのは「なかなか売れない犬がいるペットショップ」だ。
ロサンゼルスでは犬猫の販売が禁止されて、ペットショップは里親探しの場所になっている。
「売れない犬」がネタに入るだけで、客は引いてしまう。

ペットショップの場面をカットすることは、客にこびたり、陣内のセンスを曲げることにはならないと判断した。
お笑い翻訳の仕事は、単にネタを英訳するだけじゃない。
「笑わせたい人と、笑いたい人」の
幸福な関係が成り立つように、ひっかかる所を取り除く作業だ。


もちろん日本の笑いを持ち上げるだけじゃなく、アメリカの即興コントの世界、日本ではほとんど知る機会のないようなコメディアンたちが次々紹介される。

世界の笑いを知るうちに、日本と欧米を雑に比較して「こっちはダメ」「こっちがいい」で終わりにするのが、もったいなく思えてきた。

この本は、茂木さんへ噛みつくことなく、もっと多彩な笑いの世界を観てみませんか?と読者に提案するかたちになっているのが気持ちいい。
多様な文化を認め合おう、という今の世界の流れとも一致している。
「ハッ、なんで僕らは、笑いのことでいがみ合っていたのだ!」
と、読後に世界が少し広くなる。

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水道橋博士「藝人春秋2 上巻」で今さら照英のファンになる。

週刊文春が責められている。
生きてれば誰でも起こすような過ちをさらけ出し、人の一生を狂わせるゲスな奴らだと。
どうでもいいことで騒ぎ、人を疲弊させて休業、引退に追い込むハイエナだと。

水道橋博士「藝人春秋2」上巻は、
まさにその文春を硬派な雑誌から「今のかんじ」にした張本人との会議で始まる。

連載を始めるにあたり、取り上げるべき人物を問われると、水道橋博士の宣言。
「ハシモトを撃つ」
橋下徹。
同じ事務所のデイブ・スペクターに見いだされ、SNSとバラエティ番組を巧みに使って権力者になった。
関西で絶対的な影響力を持つ「島田紳助」「やしきたかじん」「辛坊治郎」を味方につけ、セクハラ発言は無事に爆笑問題がフォローした。
悪い所だけピックアップしたにしろ、やり口の数々はたしかに「フェアじぇねえ!」ぐらいは思わされるし、関西の「オモロイ奴至上主義」への警鐘にもなっている。



装丁がなぜ「007」オマージュなのか。
芸能人本を装った、謎の組織「芸能界」のスパイ報告書だからだ。
このやり口どうなんだ、彼の素顔はこうでしたと、芸能人の裏の一面、底の良心をさらけ出し、007の悪役と同名のデイブ「スペクター」の陰謀に迫る。

人間の「本当」を知りたい。
知った以上は書くしかない。
それだけ。
惚れ込んだ男のこと。ゲスな自分にも認められない男のこと。
裏の顔を知らないふりして、表面的にへらへら付き合うのは性に合わない。

高級車で繋がるビートたけし、松田優作、ビル・ゲイツらの縁。
出る側に立って思い知らされた、みのもんたの無尽蔵なエネルギー。
長い間芽が出なかった愛すべき後輩、芽が出る気配もないのにしぶとい三又又三。

印象的なのは「照英」
ドロッとした読後感になりそうな芸能界本で、掘っても掘ってもナイスガイの彼。
かつては水戸黄門のレギュラーや戦隊ヒーローだったが、今はテレビ仕事を控えて子供たちに地球儀を買い与え、まるい地球を見せて回る旅をしている。
語りに熱が入って、自分の話で泣きだす照英。走る姿はシェパード、潤む瞳はパグ犬だ。

芸能界を干されるリスクをおかして書いた、石原慎太郎編、橋下徹の後編は下巻にまわされる。



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