「字が汚い!」新保信長





第一章の内容が全部要約されて表紙に書かれている。
「何というか、筆跡そのものが子供っぽくて拙いのだ。」

「東大出身・50代」の肩書きと自分の字が合ってない。
ここぞという場面で、いい感じの字が書きたい。
(今の時代、直筆が求められる場面は、だいたい「ここぞという場面」なのだが)


知り合いの編集者に頼んで「六甲おろし」の歌詞を書いてもらって、字のバランスが悪いと
「バントとか失敗しそう」
と批評したり、

有名人、政治家、犯罪者の文字を見て、字は性格を現すのか観察していったり、80年代に流行った丸文字のルーツを探したりと、あんがい巷にあふれている直筆の文字についての一冊。


ここで調べられた範囲での話だけど、女性のほうが字がきれい。
笑うような汚い文字は全員男だ。
取材をすると、子供のころに他の子の文字を見てマネしたとか、いじめられている子が丸文字を身に着けてコミュニティに加わろうとした話が出てくる。
男子はそもそも授業中に手紙を回したりしないし、他人の字を意識することが少ない。

本作で、政治家より小説家より美文字の使い手として紹介されるのも女性。
連続不審死事件で拘留中の木嶋佳苗だ。
ブログに掲載されている字も文章も、美麗で上品な女性をイメージさせ、著者は「明らかにペン字を習っている」と分析する。
今は違うけど、初期「日ペンの美子ちゃん」も、きれいな字は異性の印象を変えるとアピールしている。

文章と書き方に関する部分もおもしろい。
同じ人が同じ題材について書こうとしても、直筆とパソコンで違う文章になる。絵を描くときにペンと筆では違う絵になるように。

服役中にひたすら文章を書くことでプロになった作家もいるらしい。
字が汚かろうが面倒だろうが、もう一度直筆を試してみたくなり、見つけたペンはタッチペン!3DS用の!タッチペン!
こんな思いをさせた時点でこの本の勝ちな気がする。

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水玉螢之丞「元祖水玉本舗」が届いた!

届く前、高いな!
届いたとき、でかいな!
って思ったんけど、開いて納得。

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大きくないと、書き込まれた文字が読めないんだ。
そして「字がきれい」なところが、水玉ワールドの清潔感を保っている。

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今より貴重なゲーム情報源だった「ファミコン通信」に、
ひとり寄せ書きスタイルでキャラ愛をぶちまけた水玉螢之丞。

当時は、なんだか楽しそうに描いてる人いるなーと思ってたんだけど、今見るとゲーム愛に圧倒される。
絵が上手いのは当たり前、好き勝手に他の漫画家のタッチにしたり、ゲーム内にないキャラ同士の関係を勝手に書いちゃったり。ディープなのにライト。他の連載とは距離を置いているけど、拒絶はしていない。

大人になってもずっとゲームやって感想を書くって、いつついていけなくなってもおかしくない。
鈴木みそも、ゲーム嫌いになったわけじゃないけど、ずっと遊ぶのは疲れてるというか、距離を置いてるようだった。

水玉嬢は無理して遊んでいる様子がない。
毎日ごはんを食べることに飽きないみたいに、ゲームをやって書きまくることに疲れる様子がない。
ヘタなのに。
疲れると目まいをおこすメニエール症候群持ちで、横スクロール「セプテンントリオン」の回転映像で酔うほどなのに。

ゲームがうまくないことは、ゲームを楽しむ障壁にはならない。
「レベル下げてもバルログが倒せないオレ(笑)」
って笑えばいい。


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永田カビ「一人交換日記」闘病記から離れて、より手ごわい一冊に 

「さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ」
という本がある。
うつ、摂食障害を抱えて人と関われず、バイト先や家族に迷惑をかけてばかりの女性が、
親の評価を気にしていた自分を吹っ切るためにレズ風俗に行く。

「ピクシヴ」からほぼ素人の闘病記が出版されて、
きゃりーぱみゅぱみゅとかカズレーザーとか、ポップカルチャーを引っ張ってる人の手にまで届く過程を見ていた。
結構思い入れがある。

永田カビさんの凄かったのは
「傷つくこともかまわず傷口えぐってくスタイル」で、
これを僕は、インクのかわりに血で描いた漫画と呼ぶ。

自分の心の闇の部分って、考え込んだりさらけ出すことで悪化する可能性もあるし、
理解できない人に傷つけられる可能性もあるのに、全部さらけだしてネタにする。

摂食障害で、バイトのレジ打ち中にラーメンをかじるシーンが強烈で…
生麺をそのまま噛むと麺が血で染まるのが、やったことある人にしか描けない感があってグッと引き付けられた。

その続編的存在の「一人交換日記」買ってきた。
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「レズ風俗」の闘病要素がなくなり、その後の日々を描く。

死にたい気持ちがなくなった作者は、こんどは耐え難い孤独に襲われる。
わかり合える人といない限り、何人でいても孤独。
家族といても風俗に頼っても解消されない、心に穴の開いた感じがずっと続く。

そして、ためこんだ思いをさらけ出した「レズ風俗レポ」が家に届く!
誰よりも幸せになってほしかった母が読む!

「レズ風俗」は、両親からの評価が絶対だった娘の反抗。
「私はこんな思いを抱えていたんだ!」って叫び。
寝てばかりだと思っていた娘がこれを描いたと知ったら、何かしら反応はあるはずだ。

怒りか、謝罪か、祝福か。
どうにかなりそうな思いで母の感想を聞くと、
「うちの恥をさらしてる」
ととられていた。
ちゃんと読んでくれてない。
ため込んだ思いが商品になって、世に出て、自分の進む道が見えてきたのに。
「おめでとう」の一言もない。

私の描いた物はそないあかんか!
そないに!!あかんか!!

叫びが痛くて熱くて何度も読んでしまう。

現代日本の若者たちの未来を照らす寄書「放っておいても明日は来る」レビュー


「放っておいても明日は来る ~就職しないで生きる9つの方法~」
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2009年に本の雑誌社から刊行されました。
9人の語り手が、将来に悩む若者たちに広い視野をもってもらうために作った一冊。
この本には、他の就職ガイド本と明らかに違う点がある。




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おわかりいただけただろうか。

語り手の一人、野々山さんが特撮好きで、著者紹介の写真に一人だけライダーキックで映っていることである。
これだけでも、この本が他と違うことが、わかっていただけるかと思う。



アジア各地を渡り歩いた経験を持つ作者、高野秀行(ダ・ヴィンチ誌上でオードリー春日さんと対談中!)は、大学で自身の経験を生かした講義をしてほしいと依頼される。
大したことは教えられないので、アジア各地で働く8人の知り合いプラス自分で、それぞれの体験談を話すことにした。
日本での勉強や就職活動に悩んでいる学生には、世界で生きている人たちの話を直に聞くことでいい刺激になるだろう、と思っていたが、学生たちが次々と口にしたのは
「癒されました」
という言葉だった。

語り手は、熱帯で手に入る植物を研究して製薬会社と研究をしている二村聡さん、
ダイエットで始めたキックボクシングのプロになってしまった下関崇子さん、
純沖縄産の映画を作っている井出裕一さん。。。


それぞれ相当面白い話が聞けるんだけど、まず存在感のあるのは、欧米人相手に秘境探検ツアーのガイドをしている金澤さん。
彼は、30年ほど前まで首刈りの風習があった村に、欧米人を連れて行くガイドをしている。
トラブルやワイロの要求は当たり前にあるし、客は2人死んだ。
それでもガイドが引いたら話にならない、客が死んだときも事前に危険性を説明しておいたから問題にはならなかった、というハードな仕事だ。社員は強制的に空手の道場に通うことが義務になっている、
日本人だと金を払えば楽な経験ができるのが当然という感覚があるけど、欧米の富裕層は金を払ってあえて苦労する「探検」という楽しみも知っているというのは面白い。


他にも、ラオスのビエンチャンという街でカフェをやっている黒田さんという人がいる。
「なぜラオスに出店しようと思ったんですか?」
「カフェ・ビエンチャンの名前が格好いいでしょう? 第一候補はカフェ・リスボンだったからリスボンに行きたかった」

現地の客層とか食材とか全く考えていない。
店作りは、「学園祭で模擬店とかを作る感じでトンカチ持って作れば3か月ぐらいでできる」と勝手に決めて作り出した。
できるわけない。計画というか、思い付きだけで出発して、それでも商売は軌道に乗ってしまう。


そしてこの本を象徴する存在が、屋久島ガイドの野々山富雄さん。
元々はコンゴで砂漠化防止のための技術を教えたり、酒を飲んだりしていたが、日本に戻って各地で活動報告をして、終点の屋久島に行ったらそこから行き先がない。

でも屋久島がきれいで気に入ったので、一坪600円ぐらいで土地をたっぷり買って、木を切って家らしきものも作って、電気が通ってからはそこでウルトラマンやライダーのビデオを観ていた。
もっとも、手作りの家には本物のマムシが出るから、画面の中の怪獣よりそっちの方が脅威のような気もするが。

そのうちに、屋久島が神秘の場所みたいな感じでテレビに取り上げられるようになって、成り行きでガイド業をすることになり、縄文杉で歩けなくなったおじさんをおんぶしたりして、毎日せっせと活動している。

そのあと、成り行きまかせで来た野々山さんは
「屋久島に住むのが1年早ければガイド業は成立していなかったし、1年遅ければ人気スポットとして取り上げられて、土地も仕事も他の誰かのものになっていた」
ということを言うんだけど、ここまで読んで急に、この講義を受けた学生がなぜ「癒された」と発言したのか解ってしまう。

「くよくよ悩んでもしょうがない」とは聞いていたけど、この人たちの話を聞いていると、本当に、将来を不安がることって、思ったより無意味だな、ということを痛感させられるのだ。
ダメな時はダメ。 だけど、動いていれば何か起こるし、何かやってると人が集まってくるものだし、一時的に「詰んだ」と思われた人生が、もうひと転がりしてどうにかなってしまうこともある。

僕らはいつの間に、こんなに人生を深刻に考える癖がついていたんだろう。




カリスマユーチューバーのツアーを追ったドキュメンタリー映画を観た。

そうそう、正月に観た映画はレンタル配信されたタイラー・オークリーのドキュメンタリーでした。



世界トップレベルのユーチューバーで、ゲイで、パジャマパーティー的なことをしている、と一通り紹介されているのだけ見て、実際に映画を観たら想像以上にパジャマパーティーだった。
パジャマといってもタイラーのトレードマークは上下のつながった着ぐるみみたいなやつ。

どうもその世界ではポケモンが人気らしく、ファンとの交流イベントではみんなで着ぐるみをしてちょっとしたポケモンワールドになっている。
その彼が何をして人気動画主になったかというと、驚いたことに、別段何もしていない。もちろんトークの技術なんかは人並み以上にはあるんだろうけど、基本的には普通のおしゃべりだ。

日本人ユーチューバーを観ても、
「この人が人気なの?」
「こんなの配信して有名になりたいの?」
と冷たい反応をする人は多いけど、それよりも断然謎度が高い。
もっと不思議なのが、そのパジャマの人に会えてファンたちが体を震わせて泣くわけ。
有名人に会えてラッキー、みたいな感じじゃなくて、見た感じ普通の女子中高生っぽい人たちが心の底から感動している様子で写真をせがむ。
タイラーを遠巻きに撮るんじゃなくて、顔を寄せ合って、自分たちもその写真をSNSで配信できるように自撮りする感じだ。

見ているうちにわかったんだけど、彼(彼女?)は、自分がどういう人間かを素直に言って、好きなことや思ったことを嘘をつかずに話すところが人気らしい。

日本だと今のオネエタレントよりも昔の篠原ともえみたいな存在で、他人から変と言われる前に「自分はこういうのが好き!」と言ってしまう。

日本だと特にネット配信していることを家族にも隠していたり、マスクをしたり、昔ほどじゃなくてもどこか「変わった人たち」がやることのイメージがあるけど、タイラーは、自分はこういう人間で今やってる活動はこういうことで…、と周囲に説明して、隠さない。

説明と議論を面倒くさがらない人のようで、祖母にも、
「関係ないからほっといて」
じゃなくて、できるだけユーチューバーというのが何かを説明して理解してもらおうとしたらしい。
母親もすごく自然体で明るくて、フォロワーが増えたのを喜ぶ様子が羨ましかった。

考えてみれば、ダンスができるとか美少女だとか、一芸あれば動画を作りやすいけど、
「少数派で取り立てて特技もないけど、自分はこういう人間です。名前はこうで、最近のトピックについてはこう考えています」
とはっきり言える人は相当少ない。何も悪いことをしてない人が顔を出して名前を言うだけで攻撃されるかもしれないんだから。
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