映画「チリ33人」感想

最近の印象深かった映画。
鉱山崩落で生き埋めになった労働者33人が、2カ月間耐え抜いて全員救出された事件。
生存者33人の協力を得て、あの事件の知られざる真相が明かされるドキュメンタリー!



生存者の皆さんが監修して、これ!?って誰もが思う、笑いを取りにきてるシーンがあって。
国や労働環境を恨み、訴える内容じゃなくてややエンタメ寄り。

定年間近のおじさん、あだ名がエルヴィスの陽気な男、仲間はずれにされているボリビア人らが鉱山に入る。
みんなうすうす危険に感づいている、いつ事故が起こってもおかしくない鉱山だ。

すぐに、超ブラックな仕事場の入り口が崩落!
下層の避難所に、数日分の食料と共に閉じ込められる33人。
上に通じるはずのハシゴは途中で切れて、通信手段も稼働してない。

忠実に映像化したら、閉所恐怖症の俺を含むみんなどうにかなっちゃうので、
外の世界の美しい風景と音楽、犠牲者の妻と愛人の取っ組み合いなど、明るい景色を積極的に取り入れている。

これまでの経費のケチり方、聞こえてこないドリルの音。
助けがこないことを感じつつ、かろうじて「信仰とユーモア」で命をつなぐ。


地上でのおいしそうなチリ料理と、地中でのカンヅメとミルクの落差、絶望感が印象的だ。
コップの底に、わずかな飲み残しみたいなミルク。
ヘッドランプだけの空間でみんな真っ黒に汚れて、いよいよ見てられない息苦しさになってきた所で!
もうみんなこのまま地の底で死んでいくんだ…という絶望感に埋まった食卓で、
いきなり全員が「かあちゃんの幻覚」に助けられる。
それが突然のトンデモ映画臭全開。

みんなが幻の妻が作った巨大バーガーみたいなのにかぶりつく。
そのあとの
「新鮮なミルクだよ!」
は爆笑してしまった。死に直面した人の見たはかない幻覚、とかじゃない。
確実に笑いを取りにきていて、あの表現を許した33人の皆さんの心の広さに感動する。

助かることを知っていても、ドリルの先が見えた瞬間は嬉しくなるし、
一生のトラウマになる事件に違いないのに、あえてみっともない部分を映像化することを許した事実が凄えなあ、と思う。

こんなことが起こっても、それでも他の仕事を選べない人がいる事実、
「ブラック企業」ってワードが流行語みたいに軽く使われてるけど、他を選べない人が大勢いる事実、
根本的には何も解決していないけど33人みんな笑顔。

深刻な内容を覚悟していたら、思ったよりもいろんな感情が湧き出てくる。興味深い一品であった。

サモ・ハン監修の「西遊記 孫悟空VS白骨夫人」が面白い

サモ・ハンをアクション指導に据えた西遊記が超面白かった。
なんでチャウシンチー版や香取慎吾は大々的にやるのに、これをもっと宣伝しないのだ。
悟空が山を爆発させて出てくるシーンだけで爆笑&拍手モンだよ。


中国で西遊記の映画となると、
「自分の知ってるものとは違うんだろうなあ」
「どうせショボイんじゃないかなあ」
とか、思ってたところに!

冒頭から虎に襲われる三蔵法師。洞窟に逃げ込んだとこで孫悟空登場!
いきなりの「如意棒ー!!」から怒涛のアクション。

「うわっ、俺の知ってる西遊記だ!このスケールとテンポでずっとやってくれるの!?」
って嬉しさ。

悟空の動きのキレが良くてもう。何かを探したり、見たり、しぐさのひとつひとつがいい。
CGでの瞬間移動は、むしろこっちがドラゴンボールの影響を受けてるみたいだ。

西遊記って遠い遠い天竺まで旅をする話のはずだけど、移動する場面なんかオールカット。
アクションだけを凝縮した西遊記。
ほかの部分はみんな知ってるだろうから、各自頭の中で補完するように!ってことだろう。

本家西遊記にある能力か知らないけど、孫悟空には「真実の目」があって、人間に化けた妖怪を見抜くことができる。
だから三蔵法師を暗殺しようとした妖怪を退治できるけど、三蔵の目には、悟空が暴れて市民を殺したようにしか見えない。

口数の少ない孫悟空はうまく理由を説明できず、一行はバラバラになってしまう。
だが、圧倒的に強い悟空を孤立させることが敵の狙いだった…という話だ。


敵ボスの白骨夫人は、三蔵法師を食って永遠の命を求める美女。
最後に待ちかまえているんじゃなくて、序盤から姿を現し、なんとか三蔵法師が説法で解決しようとする関係も面白い。

三蔵法師の精神は高潔だけど、アクション中心なので映画内では役立たずに見える。
エキサイティングな部分だけ映像化してるのに、三蔵法師が話をする場面だけ展開が止まるなあ、って。
三蔵が若干うっとうしいのが映画的にはスカッとしない。誰も救えない説法をして、命の恩人である悟空をお経で苦しめて、このお師匠さん、そこまでして守らないとだめか。
日本のドラマ版で勝手に女性としてリメイクしたのもわかる。そのほうが護衛する意味があるし、説教に嫌みがなくなる。

ド派手なラストバトル以上に猪八戒のキャストも印象的。
人間に化けているときは色白でむっちりした憎たらしい顔で、いつも女の子を追いかけてどこかに行っちゃうキャラ。この、生まれてから苦労を一度も知らないような顔!
そこそこアクションもこなすし、ピンチには豚(イノブタ?)に変身。
悟空の三十分の一ぐらいは強いかな?と思える程度のパワーを見せる。

続編では沙悟浄(こいつもいい顔!)の活躍も見たい。
悟空とちょっとキャラがかぶってるんだよ悟浄。他のメンバーにできないことは、砂に潜ってのステルス能力だと思う。そこを磨くんだ悟浄!

映画「くもりときどきミートボール」感想


ついに観れたぞ!
ライムスター宇多丸が最大級の掘り出し物として絶賛していた映画!
日本では無名な児童向け本が原作。
あんまり面白そうじゃないタイトルとビジュアル。
これでこの内容をいきなりぶつけられたら、そりゃテンションも上がるわ!



主人公のオタク博士が、
「変人のまま、自分のままに生きよ、その個性を伸ばせ」
みたいな母親の教えを信じて、ついに水を食べ物に変える機械を発明!

資源が乏しい島で、好きな食べ物を降らせることができるようになって大成功!
バカにしてた周囲の奴らを見返し、ヒーローになった彼は、越えてはならない一線を越えてしまい、過剰オーダーで機械は暴走!!

「空から食べ物が降ってくる」
という子供が考え付いたようなアイデアをもとに、観たことがない映像が広がる。

最初はお菓子がキラキラ降り注いで、子供たちがわーっと大喜びしたり、アイスで雪合戦したり、屋根のないレストランで皿の上に料理がポンポン落ちてきたリ、夢のような空間。

それが、落ち方とメニューが変わることで悪夢に変わる。
マスタードとミートソースがびちゃびちゃと街中にぶちまかれて、排せつをイメージさせる巨大ミートソースが降り注ぐ。
世界遺産が次々と巨大化した食べ物を浴びてグチャグチャにされる。

責任を取るために主人公が、機械を元に戻すためのメモリースティックを差し込みにいくというクライマックス。
スパゲティ竜巻の中、サイケデリックな色彩の中で意思をもったくまちゃんグミが無言で迫り、首のないチキンに包囲される。

これを見に来たガキに一生忘れられないトラウマ植え付けてやるぜ!という監督の叫びが聞こえる。

快活な美人お天気キャスターが、「ありのままの姿」である本来のダサいメガネオタクになる展開も(シュレックが先に似たことをやったこととはいえ)捻りがきいてて面白い。

不愉快にならないギリギリで止めた映像と、ストーリーの基本がしっかりしてるから、やりたい放題の部分も楽しめる。

この映画のヒットで、監督はもう一つの傑作「レゴムービー」に抜擢されるけど、あれは後半の展開は完璧だったものの、少々詰め込みすぎの気がした。個人的にはこっちの方が好き。

海外版ビフォーアフター「スクリーン・マシーン」1話感想


TSUTAYAやPS4で配信されたばかりの海外バラエティ
「スクリーンマシーン」(2015 英)
凄腕オタクメカニック集団が、映画に出てくる車を実際に作ってしまうという番組だ!


第一話は、「スカーフェイス」に出演していたコメディアンからの、劇中に登場したキャデラックを作ってほしいという依頼。

巨大で、内装が全てトラの毛皮柄という、一度観たら忘れられない超インパクトカーを、限られた期間で仕上げることはできるのか!

登場するメンバー連中も映画っぽくて、
強面だが奥さんに頭が上がらないボスとか、色の感覚には絶対の自信を持つキャラとか、繊細で完璧主義なやつとか。

彼らの仕事っぷりなんだけど、
ボロボロの廃車寸前キャデラックを見つけて交渉してから、なんとかレストアできそうな手ごたえが出てきた時点で、ボスは部下を連れてひとっ走り。

射撃場に行って、荒野に置かれたスイカとかをバーン!パアーン!ガガガガガ!ヒャッホー!
みんなで銃を撃ちまくる!

仕事が終わったあとにカラオケとか、本当は面倒なのに付き合いで忘年会とか、そんなんじゃだめだ!
「スカーフェイス」はギャング映画なんだから、銃を撃ちまくってギャング気分になってから仕事をするべき、というボスの判断だったのだ!

さて、マシンガンも撃ち尽くしたことだし仕事しようか、
とガレージに戻ったメンバーだが、ここで思いもしなかった事態に直面する。
ボスの奥さんが「なんで私も連れて行ってくれないの!」と怒りだした上に、締め切りまでわずかなのに射撃場で1日つぶれてしまったのだ!なんてことだ!

そこから色を決めたり、エンジンを動かしたりして着々と車を完成させ、お互いに粋なプレゼントをして終了。

仕事はちゃんとできる人だった。しかし楽しそうに働くメンバーを見ているだけでなかなか気持ち良かった。


だけど、ボスが普段乗っている車が「バックトゥザフューチャー」のデロリアンだから、どんな依頼が来てもインパクトで負けてる。

長嶋有「愛のようだ」キン肉マンの引用をしつつもクールな印象が崩れない一冊

WIN_20160104_195725.jpg


去年の大晦日に読み終わった長嶋有の初めての書きおろし小説「愛のようだ」。
別名ブルボン小林としてマンガ・ゲームコラムも書いている作者の持ち味が存分に発揮された内容で、とっても変で素晴らしかった。

ストーリーは40代で免許を取った主人公とその友達が車に乗って遠くまで行くだけなんだけど、その中に登場する
「車にのりたての人が誰もが感じる出来事」
「カーステレオからかかる音楽への考察」
が細かくて、そっちの方がメインといってもいい。

ガソリンスタンドのやり取りの会話が「ミニマム」で緊張するとか、昔のアニメの主題歌を流してみんなで盛りあがって歌おうと思ったら2番だけ誰も知らないとか、
ちょっと笑えるようなやり取り、そして「誰もがうっすら気づいてはいたけど見逃していたし、言葉にもしていなかった」出来事を丁寧に書き出していく。

読みなれてない人だと、笑える話でもないのに80~90年代のカルチャーが次々出てくることに違和感がありそうだけど、これはハードボイルドに銃やタバコが出てくるようなもので、その年代に生まれ育ったのだから自分が触れたものの話が出てくるのは当然だし、かっこ良さげなものを安易に持ってこないところが、なんというか、一周回ってかっこいいと思えるんです。

苦しい状況にいる人物を、
「超人オリンピックの決勝でロビンマスクのタワーブリッジに捕らえられたキン肉マンの、その後のあっけない逆転劇のようなことが実際の人生に起きないとも限らないじゃないか」
と言い聞かせる主人公。

キン肉マンの主題歌は
「私は(ドジで)強い(つもり)」
とコーラス部分を入れられてギャグにされているが、それに気づかない「私」だからそのあとの歌詞を堂々と言い切ることができるのだ、という解釈には、こじつけにしろ燃えました。

そういえば懐かしのアニソンって、その作品に思い入れもないのに元気が出たり、なぜか切なくなる感覚がある。
そんな心のかすかに動いた瞬間を観察した作品です。



↑