奥田秀朗「用もないのに」はスポーツ中継にウンザリした人にこそ読ませたい

前から気になってた万城目学「偉大なる、しゅららぼん」奥田英朗「用もないのに」を買ってきた。両方とも凄かった。

「偉大なる、しゅららぼん」は琵琶湖のパワーで人の心を操る一族と、人の体を操る一族がいて、互いの家系は代々争いつつも琵琶湖周辺で均衡を保ってきたのだが、たまたま子孫たちがクラスメイトになったことで一触即発の空気になるという、学園コメディーや伝奇の要素がある小説。

人の心を操る能力は、琵琶湖の水に波紋を起こす力が元になっていて、人間の大部分を占める水分に訴えて発動するらしい。
それに代々争ってきた家系がぶつかりあうという基本構図…、ジョジョみたいな設定だ!

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「用もないのに」がもっと凄かった。
この表紙でスポーツ観戦記が収録されてると気付く人がどれだけいるのか。

ワールドカップ関連の報道で、「日本は予選リーグどうですか」と聞かれた関係者が、「1勝1分けで行けます」と言うことを強制されているような、あの感じに気持ちの悪さを感じた人にはぜひ読んでほしい。

北京五輪のときの野球観戦記がメインなんだけど、当時はメディアが揃って日本ガンバレ日本ガンバレ、それに比べて中国は大気汚染がひどい、開会式の歌が口パクだった(そういうのあったな)とか、ネガティブ記事を並べていた時期だけど、
「俺は見たこと思ったことをそのまま書くだけだから。星野ジャパンを応援する義理はない」
とばかりに思ったことがそのまんま書いてある。

編集部の金で高いチケット取って、うまい北京ダック食べたことも正直に書く。
日本チームのサポーターのやかましさに周囲の観客が迷惑がっていたことも書く。
試合前から日本の応援団だけが立ち上がって、笛を吹きながら「ニッポン」コールが止まらない。
作者の近くにいたアメリカ人親子は、野球の日本対韓国戦の途中で、「コリア、コリア」と声を出して応援し始めた。あまりにもうるさい日本チームの応援に反発して、日本と戦っている側を応援し始めたのだ。

キューバ対アメリカの試合は、敵味方を問わずにいいプレーには拍手が送られ、プレーは美しくて爽快な試合だったという。

キューバの試合の方が良かった、野球を五輪種目にしたがっている国なんてほとんどない。一番盛り上がったのは、ボールボーイが観客の少年にボールを放ったときだった。この試合内容でも応援団は日本代表に暖かい声援を送るのか!私が選手に何か一言伝えるならば「お前ら、泳いで帰れ」だ。
他にも、炎天下のスタンドで、「ナンバー」の編集者だけが涼しい所にいたことのグチとか(笑)こんなことを大人数が読める場所にちゃんと書いたことを支持したい。ひねくれているけど、まっすぐだ。

他には、若いころ洋楽にかぶれたきり日本のロックを知らないおじさんがフジロックに始めて行ったときの体験記。ハイロウズを見て邦楽の進化に驚き、若い世代のロックファンに、音楽は感じるものだが知識も大事だ。昔のロックやソウルも聞いてくれ、CDも買ってくれとメッセージ。

「わたしは行列を見下している。混雑を馬鹿にしている。混雑した高速道路をTVで観て冷笑するのがゴールデンウィークの過ごし方だ」から始まる「愛・地球博」の行列に並んでマンモスを見た話。

本人が強く望んだわけでもないのに各地に行って、ずっと愚痴ってるという内容はかなり人を選びそうだけど、感性が合えば忘れられない一冊になる。僕は面白かった。


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